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目が覚めたとき、イルカは目の前にいた愛しい人の顔に安堵してついつい言ってしまった。 「カカシさん、好き、大好き、愛してる、あなただけだから、お願いだから、消えないで。」 カカシは色白の顔を真っ赤にして、イルカの手を取った。 「大丈夫です、俺はここにいますからね。安心してください。回復したらすぐに骨の髄と言わず全部愛してあげますからね。」 が、その手は無惨にも引き離された。 「いちゃつくな重症患者どもがっ!!」 綱手だった。 「やれやれ、意識ははっきりしたようだね、何を口走るのかと思って一瞬心配したがここまで元気なら心配ないだろう。ほら、みんなも出て行った。怪我に障るんだよ。」 綱手の言葉にみんな渋々出て行く。 「ったく、無茶したもんだよ。」 綱手の言葉にイルカは申し訳なく思った。一ヶ月も勝手に有給を取って、闇オークションで商品を競り落として怪我をして里に戻ってきたのだから厳重注意、そして何かしらの罰則は覚悟していた。 「あの、処罰は?」 「処罰もなにも、お前は手柄を立てたようなもんだ。入院中も有給扱いにしてやってもいいくらいだよ。」 綱手の言葉にイルカは首を傾げた。 「あの、でも私は闇オークションで商品を競り落としましたし、」 「元々あのオークションは木の葉で摘発するつもりだったから。多少競り落としたとしても任務中にやむなく競り落としたとして処理できるから五大国との取り決めに反したわけじゃないさ。」 綱手のしれっとした言葉にイルカは僅かに笑みを浮かべた。 「お前は気付いていなかったろうが、実はあのオークションの摘発はAランク任務として木の葉が請け負っていたんだ。木の葉の忍びも数人潜伏していたんだが、お前も何度か会っているばずだぞ。」 「もしかして、あの男ですか?髪が少し癖っ毛の男性。」 いやに印象に残ると思っていたが、同じ木の葉の里の忍びだったのならばそれも頷ける。 「ちなみにそいつは紅だよ。今回の任務で指揮を執っていた。今更だから言うが、なかなかあのオークションには手こずっていてな、お前が高額商品を競り落としたことでかなりの潤いが出たオークション側に隙ができてな、その隙をついて一挙摘発できたんだ。だから気に病むことはない。」 「あの、ではカカシさんはいつ頃見つかったんですか?見つかったのならば一度連絡をいただければ私もここまで意固地にならなかったでしょうに。」 その言葉に綱手ははぁ、と大きくため息を吐いた。 「その辺りは本人の馬鹿に聞け。まったく、元暗部が聞いて呆れるよ。」 「あの、それはどうゆう意味ですか?」 イルカの言葉に綱手はにやりと笑った。何か含みのある笑い方だった。 「今日はこの位にしておきな。時間はまだある、今は休養が一番の仕事だ。がんばりな。」 綱手はそう言って椅子から立ち上がった。イルカはもっと話しを聞きたがったが、綱手は頑として受け入れず、さっさと病室から出て行った。 「こんにちは、イルカ先生。お加減はどうですか?」 「ありがとう、サクラ、大丈夫だよ。ご飯もたくさん食べられるしね。むしろ俺よりもカカシさんが、」 イルカの言葉を遮るようにしてサクラは花瓶を取った。 「カカシ先生なら大丈夫よ、なにせ前の腕も一週間とかからず元の腕のように動くようになったんだから。」 サクラの言葉にイルカはそうか、と呟いた。サクラですらカカシの腕のことは何かしら知ってるようなのに、どうして自分には何も言ってくれないのだろう。顔に少しかげりのできたイルカを心配そうに見ていたサクラに気付いてイルカは思い切って聞いてみた。今まではなんとなくカカシの口以外から聞くのは憚れると思っていたのだが、どうにも気になって仕方がなくなったのだ。 「なあ、サクラ、カカシ先生はどうやって里に戻ってきたんだろうなあ、サクラは、その、知らないか?」 サクラは手に持っていた花瓶を落としそうになって慌ててつかみ取った。 「い、イルカ先生、まさか聞いてなかったの!?なんでまた、私ったらてっきりそれでまた『運命だー』とかカカシ先生喜んで話してるだろうと思ってたのに。」 「え、喜ぶことなのか?」 サクラは呆れたように言った。 「だってイルカ先生が拾ってきた小鳥がカカシ先生だったのよ?」 しばらく沈黙があって、イルカは呆然とした顔で言った。 「は?だって全然チャクラだって感じなかったし、第一みんなの前で連れ歩いてたけど誰も変化した姿だって気付かなかったんだぞ?」 サクラは花瓶をテーブルに置いてベッド脇の椅子に座った。どやら腰を据えて話しをしてくれるらしい。 「あのね、先生、」 サクラの言うことには、カカシは任務途中で負傷し両腕を切り取られ、捕まっていたのだそうだ。それでも不意の隙をついて脱走し、追跡の目を誤魔化すため小鳥に変化したそうだ。だがカカシを捕らえただけある敵は、カカシが変化した瞬間を見逃さずに術を放った。その術とは、自分自身がその変化したものに意識も全部なりきってしまうというものだった。敵も苦肉の策だったのだろう。何に変化したのか分からないならばいっそのこと変化したものの恰好で朽ちていけと思ったに違いない。そしてまんまとその術にはまってしまったカカシは本当に自分が小鳥だと信じ込んでしまっていたらしい。イルカがサクラに預けて数日後に火影がカカシだと気付き変化を無理矢理解いたものの、小鳥であった自分と、人であった自分とが混同してしばらくは精神が錯乱していたらしいが、とりあえず腕を接合する手術をし、精神と腕のリハビリを繰り返して、ようやく元に戻った所でイルカが自分を捜しに行ったのだろうという噂を聞いて居ても立ってもいられずにイルカの元に走ったと言うことだったのだ。 「ほんと、すっごい偶然っていうか、奇蹟ですよね。私もイノも運命なのね〜、って話してたのに、なんでカカシ先生はイルカ先生に話さなかったのかしら。」 サクラの言葉にイルカはそうだなあ、と曖昧に笑った。きっとカカシのことだ、自分のふがいなさに腹が立って自分に話し辛かったのだろう。その気持ちは自分だとて分かるが、過ぎてしまったことだし、こうして木の葉に戻ってこられたのだからちゃんと話してくれてもいいのに。 「でも、二人ともちゃんと無事に帰ってきてくれてよかった。もう、心配かけさせないでくださいよ。」 サクラはそう行って立ち上がった。 「じゃあ行きますね、午後からまた修行だから。」 「おう、がんばってこい。」 イルカの激励にサクラは微笑んで病室を出て行った。その後ろ姿を見送ってイルカはベッドから起きあがった。怪我はもうほとんどふさがっている。背中の傷だけがまだ薄皮一枚でそれも数日中には退院できるまでのレベルになるだろう。 「入ってきたらどうです。盗み聞きなんてよくないですよ。」 イルカの言葉に呼応するかのように一羽の鳥が室内に入ってきて一周旋回してベッドの格子に留まった。 「あなたは、まったくそんなくだらないことにこだわって。俺はどうして話してくれないのか、不安になってたんですよ。責任を取って下さい。」 イルカはベッドに座って鳥にそっと手を伸ばした。光沢のある乳白色の羽毛をそっと撫でてやると、鳥は気持ちよさそうに一声、ピィと鳴いた。そして次の瞬間には煙となって消え、代わりに白銀の髪を持つ青年が現れた。カカシだった。
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